聴こえを助ける「ヒアリングループ」の世界
スピーカーに音を出すかわりに、ループ状の電線に音の電流を流し、磁界として音の信号を空中に出すのがヒアリングループ(磁気誘導ループ、磁気ループ)です。この磁界の音信号は補聴器や人工内耳の「Tモード」あるいは専用受信機で聞くことができます。
音源の音が直接耳に届くので、たいへんはっきり音が聞こえます。雑音や余計な残響が入り込む余地が無いからです。難聴者のみならず、加齢などで聴力の 弱った方に便利なしくみです。市民会館など公共の場所に、ヒアリングループが備え付けられているところもありますが、国内ではまだまだ数が少ないのが現状です。
このように音を直接届けて聴こえを助ける方式には、他にもFMや赤外線、Bluetoothなどがありますが、ループは最も古くてシンプルな方式です。個人でいろいろ工夫して作ることができます。このホームページでは、このループの仕組みや作り方を解説します。
※ここで紹介する方法は、製品の通常の使い方からは外れるものや、実験的なものが含まれます。内容を理解されて、各自の責任でお試し下さい。
ヒアリングループとは
スピーカーから音を出すと?
普通はこのように、マイクの信号をアンプで増幅してスピーカーを鳴らします。スピーカーから出た音は空中を伝わって人の耳や補聴器に届きます。
ループを使う場合
スピーカーの代わりにループ線をつなぐと音の代わりに「磁界」が発生します。この磁界はマイクに入った音に応じて変化する磁界です。この磁界はループ線で囲んだ内側や近いところに存在します。
ループ線は音を出したいエリアの周りに1周または何周かさせます。電線は普通のもので、特別なものではありません。これがループです。
ループの音は補聴器のTモード、人工内耳のTモード、または専用受信機で聞くことができます。
ループで使う磁界は極めて微弱です。(地磁気よりもずっと小さい値です。)
専用受信機を使うと、難聴者のみならず、健聴者にもいろいろなおもしろいサービスを提供できる可能性が広がります。
(iPod-touchで聴く方法もこのHPで紹介します)
ループだとなぜ良く聞こえるか
ループ無しの場合(直接、音を聞く場合)
スピーカーまたは話者からの音は空間を伝わって補聴器や耳に届きます。壁や床・天井から反射音も届きます。雑音や不要な音も届きます。このため、聴こえにくくなります。
ループを使う場合
ループを使えば音は補聴器に直接届きますので、反射音や雑音が入る余地がありません。だから、きれいに聞こえます。耳元に直接音を届けることが重要です。
補聴器は「T」に切り替えておきます。(※T-modeのない補聴器もあります)
人工内耳の場合も「T」を使えるものがあります。
最近のデジタル補聴器では、目的の音以外を抑圧する機能などがあり、ずいぶん良く聞こえます。それでも、ループで直接届けると、そのクリアさに驚きます。
ヒアリングループの作り方
ループのシステム一式は補聴器メーカーなどから市販されています。それらを導入しているホールや市民会館などは全国にあります。(普及率は低いですが)
規格を満たすループを作るには専門知識や測定機材が必要ですが、講演会や音楽会用の仮設ループや個人用など実用的なものを自作することは割合と簡単です。ループ・システムにはループ線とアンプが必要ですので、ここでループ線、ループ用アンプについて説明します。各項目をクリックすると詳細な説明があります。音響設備のスピーカーのかわりにループ線をつなげばいいので、身近なアンプを流用することができます。また、アンプの自作も可能です。
ループ線の製作
ループの音が良く聞こえるのは、ループの中です。従って、ループは音を出したい領域を取り囲むように敷設します。部屋の床や天井などに張ります。
ここではループ線の具体的な作り方を説明しています。
ループ用アンプ
アンプは市販のオーディオアンプが使えます。
自作することも可能です。机1つなら数Wくらいのアンプ、20Wくらいで小さい部屋ならカバーできます。
マイクの音を入れるために、プリアンプやマイクミキサーとの組み合わせが必要な場合があります。
拡声器用のアンプなどではそのまま流用可能です。
ここではいろいろなアンプの利用方法や自作方法を回路図を含めて紹介しています。
ループの作る磁界
基本的にはループの中に磁界が発生します。磁界には「向き」があるので、補聴器や受信機をその向きに合わせる必要があります。ループを床や天井に張ると、発生する磁界は主に垂直向きです。
ループの外に出ると、ループから離れるに従って、急激に磁界が弱くなります。
床にループがある場合、床の位置(高さ)で最も磁界が強くなります。床から上に離れるに従って、徐々に磁界が弱くなります。補聴器(耳)や受信機の高さで十分な磁界の強度を保つ必要があります。
ここではループによる磁界の性質を定量的に説明しています。
国際規格(IEC118-4)
ループ内では床から1.2mの位置で磁界の時間平均強度を0.1A/mとする(0.07~1.4A/m)。0.4A/mを越えないようにする。周波数特性は100Hz~5kHz。
受信の方法
補聴器
耳かけ式や箱型では、「T」モードが付いた機種があります。これらはループの音が聞けます。スイッチを「T」に切り替えます
人工内耳
「T」のある機種があります。
専用受信機
ループの専用受信機には市販品があります。
ピックアップコイルの出力を増幅してイヤホンを鳴らすだけですので、自作も可能です。
ループ専用受信機の製作例
故佐藤忠氏が開発した「ソラ」も最近のものはT受信ができます。
下記(ローテク・テラ)は、ソラと同様な機能をもつものです。マイク入力とT入力の切り替えが可能です。
アンプにはHT82V739という高出力のものを使っていますので、小型ループの駆動アンプとしても利用可能です。
プリアンプ部で高域カットをしたほうが雑音が減ります。5Vの外部ACアダプタの場合、ECMが動作しない場合があります。ECM供給電圧を低くする改造が必要です。
iPodでループの音を聴く
市販の携帯オーディオなどにピックアップコイルを内蔵してもらえれば簡単に受信できるのですが、残念ながらそのような機種はありません。そこで、iPod-touchの外部音声入力にピックアップコイルを外付けし、受信できるようにしました。
イヤホン・マイクの端子(3.5ミリジャック)のマイクのところに受信用コイルを接続しています。コイル(100mHチョークコイル)と1~2kΩの抵抗を直列にします。マイク入力をイヤホンに出力するプログラムが入っています。
このように、携帯オーディオやスマートホンでループが受信できると、健聴者にも役立つサービスが考えられるのではないでしょうか。音楽を聴いているときの 割り込み機能などを付加すると、電車内のアナウンスなどにも利用できます。また、様々な案内板やディスプレイなどでループに音を出せば、その利用が可能になります。
このようなチョークコイルがループ磁界のピックアップ用として利用できます。
但し、最近のものは写真右のように磁気シールドされたものがあり、感度が出ません。本来、磁気が外に漏れないようにしたものですが、外の磁界の影響も小さいわけです。
ただのガラ巻きのコイルもピックアップ用として使えます。巻き数と面積で感度が決まります。
ループの使い方・事例集
ループは講演会や講義、音楽会などで使うことができます。また、家庭でテレビ、ラジオの音やCDの音を楽しむのにも使えます。アンプとループ線があればよいのです。
ループを上手に使うには次の「1」と「2」が大切です。実際のループの作り方は「ループの作り方」を参照下さい。
1.磁界の発生の仕方を知る
まず、ループ磁界の性質を理解することと、設置したループのどの場所に強く磁界が発生するのか、どの方向に向いているのかを知ることが大切です。このホームページの「ループの作り方」「ループの作る磁界」をご参照下さい。
2.実際に音を聴いて確かめる
実際に音を聴いて確かめることが重要です。
また、磁界強度を適切に保つ必要があります。話す人によって、あるいは信号源によって音の大きさが異なるので、常に誰かがモニタしながら音量レベルを調整す ることが望ましいのです。プロの音声担当者がいる会場で、音声調整卓(ミキサー)からライン出力をもらえる場合は安心です。この場合、「モノラルのライン 出力」を出してもらうようにしてください。これをループアンプに入力します。
また、磁界レベルをチェックできる機器も有効です。ループの磁界の強さは流れる電流に比例しますので、ループ電流をレベルメータなどで表示するだけでも使いやすくなります。
3.ループの場所を明示する
ループのある場所を分かりやすく表示することと、来場者に説明することが必要です。
これは、海外で使われている、ループがあることを示す表示です。案内のチラシなどもあるとよいことがあります。(チラシの例)
ループの事例~テレビの音を聴くループ~
テレビの音声出力をループアンプのライン入力(外部入力、AUX入力)に入れればテレビの音を補聴器や専用受信機で聞くことができます。音量を上げないで済みますし、音量は自分の補聴器や受信機で調整できますので便利です。
以前のテレビには録音用の端子がありましたが、最近は省略されているので、下の写真のようにテレビのイヤホン端子から信号をとります。この場合にはス ピーカーからの音は切れてしまうので、いっしょにテレビを見ている健聴者は困ります。スピーカーが切れずに音声信号をとれる端子があるテレビが好都合です。
写真は、テレビの上に乗せたアンプのAUX端子に入力している様子です。テレビの音声はほとんどステレオになっていますが、ここではL(左)だけを入力しています。ループはモノラルだからです。
ステレオ信号をモノラルに変換するケーブルも売られていますので、それを使うのがベターです。これは下図のように、10kオーム程度の抵抗を介してステ レオのRとLの信号を合わせてモノラルにしているようで、数kから10kΩの入力抵抗を想定したものと思います。単にステレオ信号のRとLを直接つなぎ合 わせると、出力側に負担がかかることがあります。
テレビ(特にブラウン管式のもの)からは磁気ノイズが出ていますので、テレビに近づくと補聴器Tモードに雑音が入ることがあります。
日本家屋では床に座るので、ループからの高さが低いため、比較的少な目の電流で必要な強度が得られます。箱型のループ受信機にイヤホンで聴けば、受信部を床に置けるので、頭の位置に関係なく聴こえます。
海外で見たヒアリングループ
下記の例のほか、国内では羽田空港の新国際センターミナルのインフォメーションデスクにループが入っています。
エジンバラ(英国)
[wc_row][wc_column size="one-third" position="first"] [/wc_column][wc_column size="one-third"] [/wc_column][wc_column size="one-third" position="last"] [/wc_column][/wc_row]このほか、タクシーの車内にもループマークがあります。イギリス特有の箱型タクシーはいろいろ機能的ですが、ループが装備されているようです。
ニューヨーク移民博物館(米国)
サンディエゴ空港コミューターターミナル待合室(米国)
パース(豪州)
[wc_row][wc_column size="one-half" position="first"] [/wc_column][wc_column size="one-half" position="last"] [/wc_column][/wc_row]これまでの取り組み
飯山市との協働
- みゆきの映画(ループ席のようす)
- 市役所での試験
長野高専のグループが敷設に協力して下さいました。
河口湖ジャスフェスティバル
詳しくはこちら
深谷シネマ
ループ席を設けています。